まちは人がつくるもの
8月終わり、まち歩き日和。基町アパート内にある「Unité」から授業が始まりました。基町プロジェクトの片島蘭さんを先生に基町アパート内を歩きながら、いまとむかしを巡っていきます。「Unité」は広島市立大学芸術学部のスタッフと学生が活動している基町プロジェクトの一つとして8月に出来上がった拠点です。
基町アパートの存在は知っていて興味はあったけどなかなか入るきっかけがなかった、大学で建築を学んでいて建物をじっくり見てみたい、小さい頃からこの辺りで遊んでいて第二の故郷、とみなさんが来たきっかけは様々。まち歩きを始める前に片島さんから歴史、いまの様子、建築の視点から基町アパートについて解説がありました。
基町アパートが完成したのは1978年。原爆投下後に家がなくて困っていた人たちのために作られた応急の住宅が古くなり、また木造で火事が起こりやすかったため、より住みやすい構造の建物をつくろうと、建築家・大髙正人の手によって現在の基町住宅地区が生まれました。出来た当初はにぎわいあふれる地域でしたが、現在では住民の約半分が高齢者層となり、地域の担い手不足、建物の老朽化や空き店舗の増加などの問題が浮き彫りになっています。
場所を移動して、「基町、昔の写真展Ⅴ」へ。基町アパートの変遷や子ども会による運動会など地域の思い出や日常風景が写真に収められています。「あっ、知ってる人が写ってる、懐かしい~」という声も。昔の基町を目に焼き付け、いまの基町はどう変化しているのか、まち歩きのスタートです。
まずは建築の視点から見ていきます。基町アパートは「新しい建築5原則」の影響を受けて作られています。この5原則、1.ピロティ、2.屋上庭園(テラス)、3.自由な平面、4.水平連続窓、5.自由な立面(ファサード)は、著名な建築家 ル・コルビュジエによって提唱されたもの。基町アパートを設計した大髙正人は孫弟子にあたります。基町アパートの特徴の1つとしてあげられるのが、「2層4戸で1ユニット」です。住宅は2フロア4戸で1つのユニットを作っているため、エレベーターは偶数階ごとに止まり、上の2戸へ行くには階段を使います。
もう1つの特徴が「ピロティ」。1階が吹きさらしの空間になっています。みなさんが基町ショッピングセンターへ向かっているこの通路です。こんなに高さのあるアパート群なのに圧迫感を感じないのは、ピロティを導入して人が歩く目線までも考えて設計されているからだそう。気持ちのいい風が抜けていきます。基町アパートのもう1つの特徴が「屋上庭園」。こちらは普段は一般公開されていないため、11月開催予定のイベントまでお楽しみに。
基町ショッピングセンターにやってきました。中華料理屋さん、スタンド、お好み焼き屋さん、喫茶店、自転車屋さん、理容室、会社の事務所など、多種多様なお店が並んでいます。まちの需要によってお店も変わってきていて、今は住民の半分を占める高齢者層に対応した地域包括支援センターやデイサービスもできています。
もう少し散策を続けます。基町ショッピングセンターから上へ続く階段を上がっていくと、、
気持ちのいい空間に抜けました。基町アパート群をぐるりと一望できます。アパートの真ん中に緑地帯があるって、とても心地がいいですよね。ベランダ以外にも玄関側からの基町アパートを見ることができて、特徴である「2層4戸で1ユニット」の仕組みもよくわかりました。
「昔、ここに駄菓子屋さんがあって小さい頃に買いに来ていたな~」と話しながら歩いていると、今でも現役の銭湯「平和湯」が。昔ながらの小さな銭湯で夕方16時から開いているそう。一度お風呂に入りに来てみたいです。
平和湯を少し歩くと土手への道につながっており、天満川と旧太田川が交差するあたりに出てきました。今回は時間の関係で寄ることができませんでしたが、もう少し南のほうへと歩いていくと、広島陸軍病院原爆慰霊碑があります。この碑は第二陸軍病院の跡地に設けられており、原爆投下前、ここ基町一帯は陸軍病院をはじめ、軍の施設が集まる一大軍事拠点でした。いまでは緑と川を感じられる風景が広がっていて、ランニングやお散歩コースとして利用されています。
まち歩きからの帰り道、参加者の方が会ってみたいと話されていたガタロさんを訪ねてみることに。偶然にもお会いすることができ、基町の歴史やご自身の絵の話などを伺いました。ガタロさんは基町アパート内の清掃の仕事をしながら、雑巾やモップといった掃除用具などをモチーフに画家としても活動を続けられています。
「授業に参加する前は、基町アパートは少し近寄りがたかったけれど、機能的につくられたデザインはとてもモダンで居酒屋やご飯を食べにまた遊びにきます」「(基町アパートへ)来る前よりもポジティブな印象をもった」「予想を覆す楽しさで案内をしてもらえて、来るきっかけができた」との感想がありました。
「まちは人がつくるもの。ぜひみなさんにはいまの基町の様子を他の方へも伝えてほしいです」という片島さんの言葉で授業が締めくくられました。また遊びに来ます! 基町アパートへ。
■レポート/大田 真奈
■写真/岩見 暢浩
<参加者のみなさんからのレポート(感想)>
・古き物や、自分の思いを大切にされている展示が多く、幼少の頃に感じた匂いを思い出す場面がありました。 次回も参加出来れば、呑み放題で参加したいと思います。ありがとうございました。
・基町アパートのディープな世界を学ばせていただきました。ガタロさんのアトリエにもご案内いただき、ガタロさんからお話しを聞けたのもラッキーでした。ありがとうございました。
・外から眺めているばかりで、実際に足を踏み入れたのは初めてでした。 40年以上も前に作られた集合住宅なのに、街の景観に配慮し、住む人の安全と暮らしやすさを考えて作られたことに驚きでした。昨今のマンションの方が、本当に住む人の安全や暮らしを考えてくれているのか疑問です。 下を歩いてみるとピロティのせいで、高層住宅に囲まれていても圧迫感がなく風が吹き抜けていくのが分かり素敵だなあと感じました。中央に公園が設置され、その階下にショッピングセンターがあり、二階の通路を通って、幼稚園や小学校に通学できるようになっているなんてアイデアはすごいと思った。 まちや住まいはそこに住む人のことを考えて作るもの、そんな当たり前のことに気づかされました。 ガタロさんに会えたことも感激! 基町プロジェクトの様子もすごく気になります。また美味しいランチを食べに訪れたいと思っています。
<授業詳細> ------------------------------------------------------------ 基町アパート いまむかしを歩く 2019年8月24日(土)10:30~12:00
広島市中心部にそびえる、広島市営基町高層アパート。
戦争によって家を失った人たちの為に、50年前に基町地区再開発事業計画により、
スタートしたこの街は、建築家 大髙正人によって設計された未来都市でした。
「基町アパート」
ちょっと古い建物でなんとなく入りづらい?
美味しい中華が食べられる?
えっ?? 銭湯あるの!?
色んな話は聞くけれど、行ったことない方がほとんどではないでしょうか。
今回の授業では、基町プロジェクトのスタッフとして、
基町で様々な取組をされている片島蘭さんを先生に、
基町アパートの歴史をご紹介頂き、実際にアパート内を歩いてみます。
現在、若年世帯を積極的に受け入れ、
学び・創造・交流の場としてその存在感を変化させつつある基町アパート。
ノスタルジー漂うどこか懐かしい雰囲気の市場と、
新しい挑戦を受け入れるエネルギーが同居するこの街。
どんなところか気になりませんか?
授業当日は、現地にて「基町、昔の写真展V-Growth-」も開催されています。
タイムスリップしながら基町アパートのいまむかしを歩いてみましょう!
【授業の流れ】
10:30 集合 挨拶etc
10:40 基町アパートお話
「基町、昔の写真展Ⅴ」
11:00 基町アパートを歩いてみよう
11:45 振り返り&集合写真
12:00 解散
【参加費】
無料
【集合時間・場所】
10:20 基町中央集会所前
基町アパートM98に直接お越し頂いても大丈夫です。
【定員】
12人 (基町アパートを知りたい人)
【持ち物】
※当日は基町アパート内を歩きます。
日傘や帽子、水分をお持ち頂くなど、熱中症予防ができるように対策をしてきてください。
(授業コーディネーター 藤本寛子)
<先生> ----------------------------------------------
片島 蘭 (染織作家/基町プロジェクトスタッフ)
2015年 広島市立大学芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了(染織造形)
横川でアトリエを構え制作とアートプロジェクト、商店街の活動に取り組む。
2017年 ゲンビ広島ブランド2016入選(広島現代美術館)
2018年 桃園地景藝術節「藝遊中壢上河圖」滞在制作、現地小学生にワークショップを行う(台湾 桃園市)
先生:片島 蘭 (染織作家/基町プロジェクトスタッフ)
<教室> ----------------------------------------------
基町アパート、M98(基町プロジェクト現地活動拠点)
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