楽しく防災を話そう 〜いざというときの「食」と「トイレ」のお話〜
もし大きな災害が起きて、普段通りの生活を送ることが難しくなったら。そんなとき、美味しいものが食べれたらホッとするはず。災害時でも身近にあるもので作れる料理法を学ぶ授業が、ひろしまジン大学が運営する、宿泊もできるオープンスペース「Machi+Goto」にて行われました。
まずは参加者の自己紹介から。平成26年と昨年の豪雨災害をきっかけに「防災について自分事として考え始めた」という声が多く聞かれました。「現在子育て中で、もし子連れで被災したら...と心配」、「実際のところ避難するとき何が必要なんだろう?」「地域で防災組織を立ち上げた」という声も。
非常時には水道が使えなくなる事態が予想されます。料理教室を主宰する、山口ようこ先生が、少ない水で簡単に作れる、ポリ袋を使った料理を紹介してくれました。缶詰や身近な調味料でバラエティー豊かな料理が作れるそう。
準備するのはポリ袋、大きな鍋、食材、水(1リットルくらい)、カセットコンロ。食材を入れた袋を熱湯でゆでる、というシンプルな方法です。洗い物の水を節約するため、食材カットには清潔なはさみを使います。人参などの根菜類は、火の通りをよくするため薄く切ります。鍋の水は川や海の水など、飲料水以外を使う場合もあるかもしれません。ポリ袋に鍋の水が入らないよう、熱に強い半透明の袋(高密度ポリエチレン)を使い、口はきっちり結びましょう。授業ではイワタニのアイラップを使いました。
今日のメニューは、ご飯・味噌汁・サラダ・サバ缶キャベツ・茶わん蒸しと盛りだくさん。半合のお米とその1.2倍の量の水を袋に入れ、30分~1時間ほど浸水させます。お米は膨らむので少し空気を入れた状態で上のほうで袋を結びます。水を張った火にかけ、沸騰した湯にお米の袋を入れます。次はキャベツ、エノキ、ねぎなどを切って袋に入れ、水と味噌を入れると味噌汁の準備ができました。サバの水煮缶は汁ごと袋に入れ、野菜、カレー粉を入れればカレー風味のサバ缶キャベツに。茶わん蒸しは卵とだし汁を混ぜたものに野菜などを入れるだけ。お米以外のおかずの袋も鍋に入れ、30分ほど弱火にかけます。
お米以外は、袋の口をひねり空気をしっかり抜いて結ぶのがポイント。空気が残っていると沸騰したお湯の中で浮いてしまい、食材に火が通りにくいそうです。ほかにも工夫次第で色々な食材が使えます。例えばちらし寿司の素や魚肉ソーセージなどは、常温で長期間保存できて便利です。また調味料は液体より粉状のものが持ち運びしやすいかも、とのこと。
料理ができるのを待つあいだ、話題は授業のもう一つのテーマである、非常時のトイレ問題へ。お話してくれたのは呉市の川尻地区在住のおしり先生。このユニークなお名前の理由はあとで判明します。先生は昨年の豪雨災害で水の大切さを痛感しました。特に深刻だったのがトイレです。通常のトイレは流すのに大量の水が必要で、断水時には使いにくくなります。トイレが使いにくいと衛生面・健康面にも問題が出てきます。当時、自宅の井戸水を年配の方のお宅に配る活動をしていた先生はこの問題に直面し、携帯トイレなるものの存在を知りました。2枚の袋を重ねて使い、用を足したら凝固剤をかけて、上の袋ごと処分するので衛生的に使える仕組み。自宅のトイレで使用でき、ストレスになりにくいのもポイントです。
その後、先生は、”川尻”と”お知り合い”、そして”おしり”(大切なトイレの話)を掛け合わせた「お尻愛プロジェクト」という名前で、災害に強いまちづくりを目指す活動を始めました。地域の行事に参加し、災害当時の様子や携帯トイレを広めています。災害や防災というと固い会話になりがちですが、おしりというインパクト抜群のネーミングは親しみやすく、楽しい思い出として記憶に残ることでしょう。
そうこうするうちに料理が完成しました。ドキドキしながら袋を開けて食べると…「おいしい!」「本当に防災食?!」「温かいものを食べるのはやっぱり嬉しいね」と皆さんニッコリ。ご飯はモチモチしていて、他の料理も食べ応えたっぷり。小さな袋で調理するため、おいしさを逃がさないのかもしれません。なお、ここでも節水のため洗い物を少なくする工夫が使えます。お皿にはラップをしてその上にご飯をよそう、汁ものは紙コップなどを利用する、汚れをティッシュでふき取ってから洗う、などなど。
ここで学生さんに、この調理法で自分なら何を作る?と聞いてみます。「別々に調理した卵とごはんをあわせてオムライス」「ホットケーキミックスで蒸しパンみたいなの作れるかな?」などいろいろなアイデアが飛び出します。ようこ先生いわく、この方法は煮物と汁物のメニューと相性がいいそうです。色々試してみたくなりますね。なお、ポリ袋調理法はインターネットの動画サイトでも紹介されています。ちなみにポリ袋で調理した中身は長時間置いたままだと食中毒の恐れがあるので、早く食べきるようにしましょう。
防災というと何か特別なものを準備しないといけないと感じます。もちろんそういったものもありますが、身近にあるものをどう工夫して使うかが大切だと思いました。また、長く保存できる備蓄品も定期的な見直しは必要ですね。最後にそういったことを話し合い、授業は終了です。食とトイレを通じて、防災を身近にかつ楽しみながら考えることができる授業でした。
■レポート/塚野 理加
■写真/政田 穂積
2019年2月24日開催
先生:山口ようこさん(管理栄養士・料理教室主宰)・中原祐美さん(川尻おしりさん/川尻お尻愛プロジェクト代表)
教室:Machi+Goto
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