“社会ごと”と“自分ごと”は高め合う。まずは初めの一歩から。
ときどき、ふと、思うこと。「私の生き方は、これで合っている?」「他に方法はないの?」。見回せば、高齢化に定年、大都会のゴミゴミさ、イナカの若手の少なさに、子育てや収入とのバランス感…。未来を拓いた先は本当に“アカルイミライ”なの? こんなにも「“仕事”とは」と悩む時代がかつてあったのでしょうか。それとも、こんな悩みは不毛なのでしょうか。講義には、そうした悩みを持った人たち、あるいは自分のコマの進め方を考えている人が集まっているようでした。正善坊は、そんな話をみんなでするには最適の場所。お堂に張った厳かな空気に背筋は少しシャンと伸び、それに、風通しの心地よさ、遠くまで見通せてしまう見晴らしはどうしても心を開かずにはいられません。 講義は、西村仁志先生の話と、それを受けてのグループワークを繰り返しながら進んでいきました。先生の経験してきた仕事や働き方は、さしずめ「“いきかた”のサンプル」。どう受け止め、どう自分に投影するかを深めるために、いくつかのグループに分かれて話し合いました。私のいたグループの中では、こんな話が出てきました。学校の先生をしている男性からの疑問です。「子どもたちが、“社会ごと”を“自分ごと”にできるようにするためにはどんなことが必要なのだろう」。 話の柱は「“社会ごと”ד自分ごと”=“しごと”」。これは、西村先生が提唱している仕事についての考え方。「社会の問題を自分のことにすること」や「自分の思いを社会に向けて“動き”や“カタチ”にして表現すること」が、「しごと」につながっていく、ということです。さらに、西村先生によると、漢字の「仕事」は対価を得るもの、ひらがなの「しごと」は対価のあるなしに関わらず誰かの役に立つもの、と定義づけされています。 先生は、質問に対し、「学生時代にボランティア活動で子どもたちとよくキャンプをしていたんですね。キャンプが終わって帰ってくると、親御さんたちが迎えに来ているんです。それを見ていて、『そうか、この子らもそれぞれに学校とか生活があるんやな』とか『親御さんも仕事があるもんな』とか思いました。みんなにその背景があるって感じたんですね。これ、社会とのつながりを実感した出来事です。“社会ごと”を“自分ごと”にするには共感力が大切だと思うんです」と。“社会ごと”にはヒトゴトとして素通りできてしまうものも多い。でも、何かをきっかけにして突然に「放っておけない」になることも。たとえば、先生が大学院で指導した事例の中で、「月経と女性と社会の関係」を考えることから始まった「つきいちCafe」の話がありました。この「つきいちCafe」とは男女関係なく月経について語る場のこと。オープンに月経を語れるということも大きいのですが、こういう場があることで、男の人にも月経がヒトゴトではなくなる。これは、何か新しい意義の誕生のようにも感じられる話でした。 先生ご自身の「“社会ごと”が“自分ごと”になった」話もありました。「子どもたちの自然体験」で里山の開発や自然破壊を目の当たりにされた話でした。「去年、川遊びをしてすごく楽しかった所が、今は工事が始まっていてもう遊べない」。そんなガッカリな場面にたびたび出くわしたことから「環境教育」が気になり始めたそうです。そして、そのときの想いは今、先生のしごとにつながっています。「放っておけない」になる瞬間は、実は大きなターニングポイントなのかもしれません。 逆に「“自分ごと”を“社会ごと”にするには」。つまり、自分の想いは社会のニーズと一致するのでしょうか。これには「社会に必要とされているかなんて“現時点”ではわからないけど、こだわり続けることが大事」と。たとえば、大学院での事例で、美容術やネイルを通じて癒しやエンパワーメントを図った取り組みの話をされました。「これは最初、『美容?』『ネイル?』って、ピンときませんでしたね。でも、しつこく話しているうちにカタチが見えてきて、あるお祭りのときに出店した“ネイル屋台”が成功したことが踏み台になって、次は“町家でネイル講座”という取り組みになりました」。 先生が環境教育に取り組み始めたときの話だと、「当時、社会の“空気”はまだそこに向いていませんでした。だから『自然を食い物にしてる』なんて言われたり。でも、これはやるしかないと強く思いました」。いったん“社会ごと”が“自分ごと”になっていたものが、今度はまた“社会ごと”につながり始めた瞬間。両者はいつも関わり、互いを高め合っていくようです。「こだわり続けることで、“想像していなかった新しい価値”が生まれることもあるんです」と先生。 最後は、参加者の将来への想いの発表で締めくくられました。この講義を通じて、具体的な想いを強めた人も、ぼんやりとした悩みから一歩前進できた人も見られました。「とにかく突き進む」と書いている女性がいました。最初に「今一歩、足を前に踏み出せない」と話していた人でした。人生の流れに沿って流れたり、あるいは逆らって踏みとどまってみたりと、先生の“いきかた”はとても個性的です。それを垣間見て、私は少し頭の中が整理できた気がしたし、なんだか勇気が沸いてきました。 ■レポート:西村さとみ ■写真:中西あい
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2014年06月29日(日) 13時30分 ~ 17時00分
教室:正善坊
「やりたい事を仕事にしよう!」 「楽しくないと仕事じゃない」 「いやいや、仕事は辛いからお金をもらえる」 など、働いている人それぞれが自分なりの「仕事観」を持っています。 しかし、そもそも仕事って、一体何なのでしょうか? 今回の先生は、20年前まだ「環境」「環境教育」という言葉がそれほど一般的でなかった時代に、 「環境共育事務所カラーズ」を立ち上げ、 以来、環境教育や市民参加まちづくりなどを仕事(しごと)にしてきた西村仁志さん。 西村さんによると、漢字の“仕事”、ひらがなの“しごと”は次のように定義づけられています。 対価を得るものが“仕事”、 対価のあるなしに関わらず、誰かの役に立つものが“しごと”。 また、「“自分ごと”ד社会ごと”=“しごと”」ということも言えるそうです。 いま、世の中にすでにある「仕事」以外にも 自分自身で「しごと」を作っていくことはできないだろうか。 もっと広く「しごと」というものを捉えれば、 いま、抱いている閉塞感や矛盾が少し解決するかもしれない。 今回の授業では、大学でソーシャルイノベーションや社会起業を教えながら、 自身も実践されている西村さんと一緒に、それぞれにとっての「しごと」について考えます。 なにかをはじめてみたいと思っている人、 自分の立ち位置を見つめてみたい人、 働き方を変えたいと思っている人 いつもとは違った側面で「しごと」について考えてみましょう! 【授業の流れ】 13:00 受付開始(授業開始の30分前) 13:30 授業開始 1.西村さんが考える「しごと」の話 2.自分の「しごと」を考えるワーク 3.まとめ 16:50 記念撮影・レポート記入 17:00 授業終了 【集合場所】 正善坊 【持ち物】 ・筆記用具 ・会場では靴を脱いで上がります。 【入場】 集合場所へは、授業開始時間までに必ず集合して下さい。 なお、10分を超えて遅刻された場合は受付終了となり、 授業へ参加することが出来ませんのでご注意下さい。 【交通手段】 お車、自転車でお越しの際は、近隣のパーキングをご利用下さい。 【当日連絡先】 070-5522-9638(ひろしまジン大学事務局) ※緊急のご連絡の場合のみ、おかけ頂きますようお願いいたします。 (授業コーディネーター 古川智恵美) ===================================================== ※当授業は無料の学生登録をすることで、どなたでも受講できます。 ご希望の方はお申込画面へお進みください。 =====================================================
<先生>
西村 仁志 / 環境共育事務所カラーズ代表、広島修道大学人間環境学部准教授
1963年、京都市生まれ。京都YMCA職員として勤務(1986~1993年)。1993年に環境教育の専門事務所「環境共育事務所カラーズ」を開業し代表を務め、市民、行政、企業等の環境教育、パートナーシップの現場の企画とプロデュースを行う。社会人大学院生を経て2006年~2011年は同志社大学大学院総合政策科学研究科准教授(ソーシャル・イノベーション研究コースを担当)、2012年4月から広島修道大学人間環境学部准教授。 著書に「ソーシャル・イノベーションとしての自然学校:成立と発展のダイナミズム」(みくに出版)。博士(ソーシャル・イノベーション) 「環境共育事務所カラーズ」
<教室>
正善坊
住所:広島市中区寺町6−2 広島電鉄「寺町」駅より徒歩5分
浄土真宗本願寺派のお寺。ひろしまジン大学事務所のご近所さんです。
カテゴリ:【社会】 言 語 : 日本語のみ 定 員 :15人
参加対象:どなたでも